草は、菖蒲【ショウブ】、菰(こも)【マコモ】。葵(あふひ)【フタバアオイ】、いとをかし。神代よりして、さるかざしとなりけん、いみじうめでたし。もののさまもいとをかし。おもだか【オモダカ(面高)】は、名のをかしきなり。心あがりしたらんと思ふに。三稜草【ミクリ】。蛇床子【ヒルムシロ】。苔【コケ】。雪間(ま)の若草。こだに【ツタ】。かたばみ【カタバミ】、綾の紋にてあるも、ことよりはをかし。
あやふ草【不詳】は、岸の額(ひたひ)に生ふらんも、げにたのもしからず。いつまで草【不詳】は、またはかなくあはれなり。岸の額よりも、これはくづれやすからんかし。まことの石灰(いしばひ)などには、え生ひずやあらんと思ふぞわろき。ことなし草【不詳】は、思ふ事をなすにやと思ふもをかし。
しのぶ草【ノキシノブ】、いとあはれなり。道芝【シバ】、いとをかし。茅花(つばな)【チガヤ】もをかし。蓬【ヨモギ】、いみじうをかし。山菅【スゲ】。日かげ【ヒカゲノカズラ】。山藍【ヤマアイ】。浜木綿(はまゆふ)【ハマオモト】。葛【クズ】。笹【ササ】。青つづら【フジカズラ】。なづな【ナズナ】。苗【イネの苗】。浅茅(あさぢ)【チガヤの群生】、いとをかし。
蓮【ハス】葉(はちすは)、よろづの草よりもすぐれてめでたし。妙法蓮華のたとひにも、花は仏にたてまつり、実は数珠(ずず)につらぬき、念仏して往生極楽の縁とすればよ。また、花なき頃、みどりなる池の水に紅(くれなゐ)に咲きたるも、いとをかし。翠紅翁とも詩に作りたるにこそ。
唐葵(からあふひ)【フユアオイ】、日の影にしたがひてかたぶくこそ、草木といふべくもあらぬ心なれ。さしも草【ヨモギ】。八重むぐら【カナムグラ】。つき草【ツユクサ】、うつろひやすなるこそうたてあれ。
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